研究概要

RESEARCH 食虫植物の進化(1)サラセニアの袋型捕虫葉の進化

サラセニアは、袋型の葉を作り、その中に消化液を溜め、落ちた小動物を消化吸収します。葉形態の多様性は葉の表裏を規定する遺伝子の発現変化によって引き起こされていることがわかってきました(Fukushima and Hasebe 2014)。そこで、総研大大学院生だった福島健児 君(現コロラド大学、学振海外特別研究員)は、サラセニアの葉の形成過程で、シロイヌズナの葉原基の表側に局在するPHABULOSA遺伝子と裏側に局在するFILAMENTOUS FLOWER遺伝子の発現を調べました。すると、予想外に表裏の発現様式はシロイヌナズナとよく似ていました。さて、どうするか。福島 君は実際に葉で何が起こっているかを知るために、葉形成過程の切片観察を行いました。その結果、葉の先端側では表面と垂直な方向に分裂が起き(垂層分裂)、葉原基は横に広がるように成長しているけれども、葉の基部側では表面と平行な分裂が起き(並層分裂)茎頂側に伸び出すように成長していることを発見しました。同じ葉原基の中で、先端側は横へ、基部側はそれと直角な方向へ伸び出すので、器官の中でゆがみが生じ、その結果として、穴ができるということを明らかにしました(Fukushima et al. 2015)。細胞分裂面の方向を変えることによって、袋型の葉のような大きな形態変化が引き起こせるというのは大きな驚きとともに、小さな遺伝子変化で大きな形態変化を起こしうるという良い例となりました。では、細胞分裂面はどんな遺伝子の変化によって進化したのか。細胞分裂面制御の遺伝子系はどの植物でも明らかになっていないので、この問題に挑戦しようと思っています(陸上植物の細胞分裂面の決定機構の項参照)。

サラセニアの袋状の葉